不登校は、甘えか? 甘えではないのか?
専門家の間でも意見が分かれる難しいテーマですが、元不登校で現在は不登校支援を全国規模で行なっている私(木村優一)の見解をお伝えします。
見解をお伝えした後に、この記事の最後のほうで「不登校だった頃の私が感じたこと」や「不登校対応をする上で気をつけたほうがいいこと」までお伝えします。
不登校は甘えなのか、甘えではないのか、専門家の間でも意見は分かれていて、不登校を甘えと解釈する先生もいますし、甘えではないと解釈する先生もいます。一般の方達の間でも、意見は真っ二つ。不登校は甘えだと完全に信じている人もいますし、断固として甘えじゃないと主張する人もいます。考え方の違いで激しい罵り合いが起きることもありますので、このテーマは慎重に扱ったほうがいいでしょう。
不登校に悩む当事者であってもなくても、このようなセンシティブな内容は安易に口にしないことが安全策であり思いやりでもあります。安易に「不登校は甘えだ!」と言わないほうがいいですし、逆に「不登校は甘えじゃない!」と安易に主張することも控えたほうがいいでしょう。
不要な感情的衝突が減ることで多くの方たちが優しく安らぐことができ、それによって不登校問題の解決が全体的に見て大きく進むのですから、そのことを一人でも多くの方が意識していただけたら不登校専門家の一人として嬉しいです。
…というわけで、できれば私もこのテーマに触れたくないのですが、専門家としてこのテーマについて語らないわけにはいきません。
「不登校は甘えなのでしょうか?甘えではないのでしょうか?」
と質問されることが、よくあるためです。
ですから今回、私の考え方をお伝えしておきましょう。
先に私の見解をシンプルにお伝えしておくと、不登校は甘えでありながら甘えではありません。
「甘えであって甘えではない」
矛盾する表現ですが、これが私の考え方を示す最もわかりやすい表現です。これは、私自身の不登校経験を通して思ったことでもあり、10年以上の不登校支援経験を通して改めて思ったことでもあります。
甘えの側面と甘えではない側面
まず、不登校が甘えである点について説明しましょう。
不登校は、客観的に見れば甘えですよね。一般的な考え方をするなら、やるべきことをやっていないのに(学校に行くべきなのに行かずに)親に頼ってラクな生活をしているのですから、普通に考えれば甘えです。
ただ、その甘えが自分自身の生命を守るためにどうしても必要なものだとしたら…… どうでしょうか?
例えば、学校で悲惨ないじめにあっていて「このままだと殺されるんじゃないか……」と思えるほど追いつめられてしまったとします。それでどうすることもできなくて、不登校(学校に行くべきなのに行かずに親に頼ってラクな生活をすること)を選んだとしたら、どうでしょう?
単純に「甘え」とは言えないはずです。
「そういう事情を抜きにして外観だけをとらえれば『甘え』と言えるけれども、その事情を知れば単純に甘えとは言えない。そこには『緊急避難』の意味も含まれているため、ちょっと意味が違ってくる」
そんなふうに考える人が多いのではないでしょうか。
そこまで考えると、「甘えとも言えるが甘えではないとも言える」というふうに解釈が広がっていくはずです。
これが、私が「甘えであって甘えではない」と表現する理由の1つです。
バランスをとるための甘えは、本当の甘え?
別の例を考えてみましょう。
例えば、ここに一人の男の子がいるとします。
その男の子は今までものすごく頑張って生きてきました。自分に厳しく、どんなに眠くても寝ずに勉強し、学校でつらいことがあっても誰にも相談せずに一人で乗り越えて、部活でも結果を出すために毎日全力で努力してきました。
そんな男の子が、ある日すべてが嫌になり、学校に行かなくなったとします。(=不登校になった)
こういった場合でも、その男の子の今までの人生を知らない人から見れば「甘え」に映りますよね。学校に行くべきなのに行かずに親に頼ってラクな生活をすることを選んだのですから、何も知らない他人から見れば「甘え」に見えます。
でも、その男の子の今までの人生を一番よく知っている人物(その男の子自身)の視点で考えてみたらどうでしょう?
「甘え」と言えますか?
その男の子は、ずっと自分に厳しくして生きてきたのです。厳しく、厳しく、厳しすぎるくらい厳しく生きてきた……その果てに「学校に行かなくなる」という「一般的に見ての甘え」をたった一つ選んだだけです。それを単純に「甘え」とは言えないでしょう。
どちらかと言えば、「バランスをとった」と表現したほうがいいかもしれません。
「今まで自分に厳しくしすぎていた偏りのバランスを取り戻すために『一般的に見ての甘え』を選択してバランスをとった」
そんなふうにも思えるはずです。
このように、ある観点から見れば不登校は甘えであり、別の観点から見れば不登校は甘えではなくなるものです。
つまり観点の問題。
どこに観点を置くかによって変わってしまうものなんですね。
この“視野の広げ方”が重要!
以上のような理由により、不登校を単純に甘えだと言うこともできませんし、単純に甘えではないと言うこともできません。
大切なことは、偏った見方で不登校の子供たちを傷つけないように気をつけることです。偏った見方で「不登校は甘えだ!」と決めつけたら、それで傷つき、苦しむ子供が増えてしまいます。そこに気をつけて、「不登校は甘えだ!」と偏った見方をしないように視野を広げながらサポートすることが大切です。
「ただ甘えているだけでは?」と感じたら、“甘えていない側面”に目を向けましょう。どんなに甘えているように見えても、今のお子さんには「甘えずにがんばっていること」があるはずです。そこに気づく意識を親御さんが持つと、お子さんの不登校が改善に向かいやすくなります。前述の内容を参考にして「甘えが緊急避難であるケース」や「自分に厳しすぎた状態からの解放であるケース」を想像するのも効果的です。それだけでも視野を広げながらサポートでき、不登校が改善に向かいやすくなります。これは不登校対応の重要なポイントです。
逆に偏った見方で不登校の子供たちを甘やかしすぎるのも問題ですから、そこにも気をつけてサポートしていきましょう。「不登校は甘えではない!」と単純に思いこんでいると、不登校を肯定しすぎることで子供の怠惰な生活をエスカレートさせてしまい、不登校が長期化します。「これは、ただの甘えかもしれない」と考える冷静な頭もしっかりと残しておきましょう。
甘やかしすぎない=単純に厳しくする
ということではありません。単純に厳しくするだけなら親子の衝突が増え、不登校悪化に向かいます。厳しくするなら、単純に厳しくするのではなく、発想豊かに自然と厳しくすることです。いろいろとアイデアを出して、子供が厳しくされたと感じないくらい上手に厳しくすることで、不登校改善は急速に進みます。(そうしたアイデアを共有できるグループに入っていると、アイデアが出やすいでしょう☆彡)
不登校は甘えだ!と単純に決めつけて不登校の子供たちを追いつめるのは(決して大げさな表現ではなく)殺人行為に近いものですし、不登校は甘えではない!と誰かが主張しすぎることで不登校の子供たちの怠け心をエスカレートさせてしまうようなら、やはりそれはバランスを欠いています。
私は「観点をズラして物事をとらえる柔軟性」を重視していますし、その柔軟性を「不登校の子供を取り囲む周りの人たち」に身につけていただけたら、不登校の子供たちがもっと生きやすい世の中になると思っています。
単純に「不登校は甘えだ」と決めつけない。
だからと言って、単純に「不登校は甘えではない」と決めつけることもしない。
「不登校は甘えであって甘えではない」
それくらいの矛盾した表現で柔らかくとらえておくほうが、子供たちの力になれる気がしませんか?
私が不登校だった頃の話
私が不登校だった頃、私に対して「甘えている」と言ってくる人もいました。
当時はその人たちのことが大嫌いでしたが、時が経ち、今になってみるとその人たちが言っていたこと(甘えている)は半分正解で半分間違いだったんだなと思います。ある観点から見れば確かに私は甘えていたし、別の観点から見れば私は自分に厳しかったからです。
逆に、私が不登校だった頃、私のことを甘やかしてくれる人たちもいました。
その人たちの行為に関して、時が経った今、どう思うか? これもやはり、半分正解の対応で半分間違いの対応だったのだなと思います。甘やかしてくれたことで助かった部分も大いにありましたし、甘やかされすぎたことで前進が大きく阻まれた部分もあるからです。
このような経験をベースにして、前述のような私の見解が生まれました。
偏った見方で不登校をサポートしようとする大人は大勢いますが、バランスのとれた見方で不登校サポートができている大人はあまりいません。それが原因で不登校脱出が大幅に遅れている子供たちが大勢いることを知っていただけたら幸いです。
今これを読んでいるあなたは偏りが解消し、バランスのとれたサポートができるようになるでしょう。その力を不登校の子供たちのために最大限活用していただけたらと思います。
執筆者:シア・プロジェクト代表 木村優一
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